街の中でずれながら積層する

街の中でずれながら積層する

 

街の中で螺旋状にずれながら積層する5階建てRC造の集合住宅。周囲との関係について、建物内の住人同士や隣近所といった狭域的なもの、都市とか街といった広域的なものの2つのレベルで考えていたように思う。
狭域的なレベルとしては共用部分のあり方を探った。今回は共用部分である階段を外部に投げ出し、建物外周にらせん状に巻きつけた。結果、各住戸は4面全てが直接外部に接し、この階段では各住戸や隣の建物での生活の気配が感じられつつ、角を曲がるたびに近く街並みや景色が見え隠れする。この外部階段では常に隣の建物や周囲の街並みが背景として存在する。たった4戸しかない集合住宅なので、共用部分での住人同士の関係は、近くの道でたまたま出会ったような大らかな距離感のほうが好ましいように考えた。
広域的なレベルでは構成要素のスケールの違いに着目した。阪神・淡路大震災後の再開発で駅前にこそ大きなマンションやビルが建ったが、少し離れると狭い道が入り組み、戸建住宅が多く並ぶ。この建物はこういった構成要素のスケールが異なるエリアの境目にある。これらを繋ぐ建物のあり方として、大きなひとつのヴォリュームとしてではなく、小さいヴォリュームの集合の結果としての建物が望ましく思えた。建物を構成する要素としてはヴォリュームよりもスケールの階層を下げ、幅1.8m高さ2.7mの壁とした。この壁が集合することで各層のヴォリュームが形成され、そのヴォリュームが集合した結果がこの建物である。
これは厳しい予算条件のためでもあり、1階部分の壁・天井型枠のみ製作し、2~5階ではそれを転用した。この壁を隙間を空けてらせん状に並べ、その壁のみで各階のプランも建物全体の構造も成立させた。各層のヴォリュームは階段をよけつつらせん状に積層し、各階のプランは水周りやベランダのあるL字型のスペースが90度ずつ回転しながら巻きついた形となる。階段、壁、ヴォリューム、プラン。4重のらせん運動で形成された建物である。単純な要素による単純で自律的な構成ルールから導き出されたが、結果としては複雑さや多様性を備えた建物となっている。
日本の大きな都市は材料は鉱物的なのに、その周辺部での自己増殖していく構造のあり方は植物的であることがひとつの大きな特質のように感じていた。そこでの経験の記憶として残っているのは、一貫したストーリー性を備えたものではなく、物と物との偶然の重なり合いやその見え隠れ、互いに無関係で断片的な、瞬間瞬間の場面の集積でしかない。らせん状に増殖していく壁や、階段からの、そして壁の列とその隙間からの重なり合いやその見え隠れは、私なりに抱いていた都市や街における特質性や記憶のアナロジーでもある。共通であるが多様であり、安定しているが変化があり、厳密であるが遊びもあり、合理的であるが無駄もある、そんな鉱物的であるが有機的でもある建物を目指した。(佐藤森)

 

 

新建築 2016年8月号 集合住宅特集

「CASA  ESPIRAL」作品紹介

 

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