放散虫。
6億年ほども前の先カンブリア時代から、
独自の速い進化を遂げながらも、
今も海中でゆらゆらと浮遊し続けている、
大きさ0.1~0.2mmほどの小さな生きた結晶たち。
あるものは放射状に突起を伸ばし、
あるものは球状や円錐状の回転体、
あるものは雪の結晶体のような形をした、
炭酸カルシウムや二酸化珪素からなるガラス細工状の殻を身に纏う、
恐らくはこの地球上で最も美しい姿のひとつ。
もし自然摂理・自然選択というものが、
合理性・節約・有用性だけをモットーに、
情け容赦無くとりしきる現場監督のような存在であったのなら、
この小さな結晶たちは決して生み出されることはなかったであろう。
かつてバックミンスター・フラーは
5万倍に拡大された彼らの顕微鏡写真を見て、
あまりものフラー・ドームとの形態上の類似に驚愕したという。
言うまでもなくフラーはデザイン・サイエンス革命を提唱した、
20世紀で最も進んだ知性のひとつ。
彼らは最も組織化の程度の低い単細胞生物、原生生物とされているが、
むしろ最も進化した知性体なのかもしれない。
『生物の驚異的な形』 エルンスト・ヘッケル著 (河出書房新社)