隙間をリサイクルして「まち」のあわいに暮らす|東京・渋谷の設計事務所

隙間をリサイクルして「まち」のあわいに暮らす

空隙の家アクソメ120分の1階段の色ありver

 

「このまちが気に入ったから」という理由で選ばれた、
都心の住宅密集地にある約13坪の変形地。
お施主さんはRC造の家を、そして、
閉じた家の中だけに暮らすのではなく、
図書館が子供の勉強部屋で、喫茶店が仕事の打ち合わせスペースで、
そういった「”まち”に暮らすライフスタイル」を望んでいた。

細分化の結果である変形地の形状そのままに、
中古型枠を再利用して立ち上げられた荒々しいコンクリートの建物中央部を、
延長された北側隣家間と西側隣家間の隙間が直撃し、空隙を穿って交叉する。
日本の都市では消費されていく建物よりも、
敷地境界線を挟んで再生産される隙間の方が普遍的である。
外壁や敷地境界といった面や線による境界ではなく、
この残余空間を「界隈」といったような、
あわいのネットワーク空間としてリサイクルすることで、
パブリックとプライバシーという二項対立とは違う、
まちや隣家との新たな関係をつくろうと考えた。

斜線制限が境界線ほぼ全辺からかかるゆえ、
地上に建物をのせると屋根形状が複雑になり、
3階が充分にはつくれない。
ボーリング調査から地盤面1m下に関東ローム層があることが分かった。
安価な簡易山留めで掘削可能な深さ、
そして1Fでの自然排水が可能な深さまで建物を埋めることで、
施工しやすいフラットルーフで容積率上限まで床面積を確保できる3階建てとし、
地盤改良や杭工事も不要にした。
低い階高ゆえ室内に梁型は出せないので、
床も屋根もすべてキャンチ(片持ち)スラブとした。
7枚のキャンチスラブで出来た、
空隙を中心とする重層的な竪穴式住居である。
建物の構成は事前にではなく、
厳しいコストや法規制、構造との整合性はもちろん、
隣家や地盤、埋設管などといった周囲環境や条件との交渉の結果として決めていくことで、
この敷地ならではの家になればと考えた。

空隙はトップライトで覆われた半屋外的空間とし、動線をここに集中させた。
部屋から部屋への移動の際には空隙を通過させるプランにして、
日常生活のなかで外と内を混ざり合わせようとした。
絵を描いたり、ものを作ったり、そんな家族の時間を支える大きなテーブルを空隙の最下層中心に設け、
上層にはベンチや物干しスペースを点在させることで、
空隙が周囲環境を背景とした立体的な生活の場になればと考えた。

社会的ネットワークの発達が、物理的に近い近隣同士の関係を弱めつつある。
前面道路が”まち”を支えているオモテの秩序で、
無頓着な後ろ姿でもある建物間の隙間こそが、日本の変貌し続ける”まち”の特質を生み出しているウラの秩序で、
そのオモテとウラのあわい(間)にある空隙を核となる空間にすることで、
外壁を越えて、敷地境界線も越えて、この場所から意識できるあたりまでが家となり、
家の周囲から近隣へ、そしてまちへと関係性が波紋のように広がっていく、
そんな「”まち”に暮らすライフスタイル」の拠点としての家になればと考えた。

 

空隙の家1,2F平面75分の1
空隙の家2.5F3F平面75分の1
空隙の家東西断面60分の1
空隙の家南北断面60分の1

 


新建築 住宅特集 2023年11月号 特集/場所に応答せよ

『空隙の家』作品紹介

空隙の家

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