狭小住宅 |建築家思考|東京・渋谷の設計事務所

建築家思考の 狭小住宅

狭小住宅 とは、ひとつのライフスタイルです・・・

土間のある狭小住宅、王子の家
(”王子の家|土間のある狭小住宅”)

 

狭小住宅 とは ”とても小さな家” のこと、そう思っていませんか?

そうではありません。

狭小住宅 は、とても魅力的なライフスタイルのひとつです。

 

Contents
01|狭小住宅 とは・・・
02|狭小住宅 の間取り(デザイン)のコツ?
03|狭小住宅 に求められる価値観
04|小さい、ということ。
05|狭小住宅 に潜む大きな可能性
06|狭小住宅 とは、ひとつのライフスタイル
07|東京の”まち”に暮らす3階建て狭小住宅の設計実例(狭小・変形地)
・・・土地探し
・・・「この”まち”が気に入ったから・・・」狭小・変形地の選択
・・・狭小・変形地に建つ狭小住宅の設計条件整理
・・・(1)小さい家に込める、大きな思い
・・・(2)狭小住宅 であるということ
・・・(3)敷地及びその周辺との関係性
・・・狭小・変形敷地の分析
・・・隙間を歩く・・・テーマおよび建物の構成の検討
・・・キャンチスラブ・・・建物の構造形式の検討
・・・路上で・・・というアナロジー
・・・”まち”に暮らす、都心のRC造狭小住宅の平面図(間取り)とデータ
08|”まち”に暮らす 狭小住宅 ならではの価値観
09|追記:狭小住宅の価格について(メリット、デメリット)
10|狭小住宅こそ建築家との家づくりを!

 

 

狭小住宅 とは・・・

王子の家|土間のある狭小住宅

(”王子の家|土間のある狭小住宅”。この写真は新建築社によるものです。カメラマン:楠瀬 友将)

 

 

狭小住宅とは・・・あまり明確な定義はないと思う。

けどWikipediaによると、

「明確な定義はないが、一般に約15坪(50m2)以下の土地に建てられる住宅が狭小住宅と呼ばれる。ミニ戸建てと呼ばれることもある。」

Link:Wikipedia 「狭小住宅」のページ

とのこと。

 

私が独立する前に働いていたアーツ&クラフツ建築研究所は、

”ちっちゃな家”という狭小住宅 を得意とする有名な設計事務所で、

私もそこで狭小住宅ばかりを担当していた。

その時は土地の広さが20坪以下を目安に、

”ちっちゃな家”かどうかを区別していたと思う。

ただ土地の広さは同じでも、

容積率つまり、

3階建てか5階建てかでも大きく異なるはずだし、

そこに住むのが何人家族なのか、にもよるので、

土地の広さだけで明確な定義は出来ないと思う。

 

私が独立してから今までにも狭小住宅は設計してきた。

”保土ヶ谷の家”~ローコストの狭小住宅(木造ラーメン)~

”上丸子の家”~間口4mの細長い狭小住宅(木造ラーメン)~

そして現在工事中の

”空隙の家”~都心のRC造3階建て狭小住宅~

も狭小住宅だし、

床面積的に言えば

”王子の家”~土間のある狭小住宅~

も狭小住宅だと言えると思うし、

敷地面積が21坪の高低差のある変形敷地に建つ

”鶴ヶ峰の家”~高低差のある変形地に建つ狭小住宅~

もギリギリ狭小住宅と言えると思う。

 

ただ、この「狭小住宅」という言葉はあまり好きではない。

何も「狭い」「小さい」と重ねて言わなくても・・・と思ってしまう。

「小住宅」くらいの表現の方が品があっていいのだけど、

今では「極小住宅」とか「スモールハウス」という言葉もあるらしい・・・

 

 

狭小住宅 の間取り(デザイン)のコツ?

ローコストの狭小住宅、保土ヶ谷の家

(上の画像は”保土ヶ谷の家|ローコストの狭小住宅”の断面ダイアグラム)

 

ある住宅の取材・撮影時に雑誌社の編集者の方から、

「 狭小住宅の間取りのコツは? 」

と聞かれたことがある。

狭小住宅こそ、できるだけ間取りをしないのがコツ

そう答えた記憶がある。

 

20年以上前にアーツ&クラフツ建築研究所で働きだして2年目くらいに、

杉浦伝宗氏を中心に事務所のスタッフとで”ちっちゃな家3原則”というものをまとめていた。

確か彰国社の建築専門誌”ディテール”の連載企画に向けての準備だったと思う。

ちっちゃな家3原則とは

・透ける

・抜ける

・兼ねる

の3つだ。

「透ける」は光や視線的なもの、

「抜ける」は空間的なもの、

「兼ねる」は用途・機能、

といった感じか。

今では他の設計事務所でも、

この3原則を”狭小住宅の設計(デザイン)のコツ”として、

堂々と謳っているところもある。

 

この3原則で設計していった結果、

行きつくところのひとつにワンフロア・ワンルームがある。

例えば建蔽率いっぱいの建物を敷地の片側に寄せて配置し、

残りの部分にバルコニーを作り、

(※バルコニーが建蔽率に含まれるかどうかは区や自治体によって違うので要確認)

室内の床とバルコニーの床の段差を出来るだけ小さくして室内外を一体化させる、

というもの。

私も独立した直後にはこういった設計もしていた。

”上丸子の家”~間口4mの細長い狭小住宅(木造ラーメン)~

がそうだし、

狭小住宅ではないが、

百合ヶ丘の家 ~スキップフロアの木造住宅~

もそうである。

 

木造ラーメンの細長い狭小住宅、上丸子の家

木造ラーメンの細長い狭小住宅、上丸子の家

(上の画像は”上丸子の家|木造ラーメンの細長い狭小住宅”)  

 

スキップフロアの木造住宅、百合丘の家

(上の画像は”百合ヶ丘の家|スキップフロアの木造住宅”)

 

 

けど今はこういった手法での設計はほとんどしていない。

私の頭の中にあるのは「透ける」「抜ける」「兼ねる」ではないし、

その結果としてのワンフロア・ワンルームでもない。

今、私がいちばん気を付けて設計しているのは家族同士の関係であり、

建物と敷地周囲の関係であり、

部屋と部屋との関係である。

つまり色々なものの関係性、

を大切にして設計をしている。

それらの関係性を重要視して建物全体の構成を検討し、

建物全体の構成自体がそのままプラン(間取り)であるかのような、

そんな設計を心掛けている。

これはどんな規模の建物でも同じである。

 

狭小住宅 の設計はやはり難しい、けどとても面白い。

広さに余裕がある住宅と同じように設計しても上手くいくはずがない。

出来るだけ広く感じさせるとか、

出来るだけ合理的な収納スペースの活用を工夫するとか、

出来るだけ合理的に広い床面積を確保するとか、

そういったテクニックも必要だけど、

テクニックだけで終わってしまうのは良くない。

テクニックは手段であって目的ではない。

建物の設計を合理性という答えを求めるだけのパズルにしてしまってはいけない。

 

狭小住宅 の場合は斜線制限なども厳しくかかってくるので、

その厳しい制限の中での合理性を求めるパズルは案外と楽なのだ。

例えば、らせん階段は廊下が必要ないから、

狭小住宅 においてはとても便利で合理的な階段である。

狭小住宅 の設計に慣れてくれば、

斜線制限との兼ね合いで、

らせん階段を平面のどのあたりに配置したら合理的に床面積が確保できるか、

すぐにおおよその察しがつくようになる。

けどそこに、

狭小住宅 の本質的な問題解決があるわけではない。

 

 

狭小住宅 に求められる価値観

保土ヶ谷の家、ローコスト狭小住宅

(上の画像は”保土ヶ谷の家|ローコスト狭小住宅”)

 

 

逆説的な言い方になってしまうけど、

狭小住宅 の良さは、

小さいということが、

住まい手にとって住宅にいちばん重要なものは何なのか、

そもそも住宅って何なのか?

そもそも生活って何なのか、

という問いを否応なく突き付けてくることになる点だ。

その問いに対する答えこそが、

住まい手の価値観というもので、

実はこれはどんな規模の住宅設計においても最も重要なものなのだけど、

狭小住宅ではそれがもっと切実で現実的な生活の問題として襲いかかってくる。

そこをきちんと捉えて出来た住宅は、

その住み手ならではの価値観が凝縮されて反映された、

個性的で人間味のある住宅になるのだと思う。

そこがとても面白い。

 

設計者としては、

狭小住宅 をテクニックの寄せ集めで終わらせてしまうのではなく、

小さいということを、

もっとポジティブに受け止めていく根本的な価値観が欲しい、

そう思う。

 

 

小さい、ということ

 

狭小住宅、方丈記

 

小さい、ということ。

短歌、茶室、坪庭、盆栽、活け花、カメラなどの精密機械、家電・・・

どうも私たちの国には小さいものへの強い愛着があるらしい。

鴨長明は自分の住まいを10分の1、100分の1と縮小し、

「広さはわづかに方丈、高さは七尺が内なり。」の庵が終着点となった。

平面が3メートル四方程のこの庵は、

何時でも場所を移すことの出来る、

いわば仮設小屋のようなもので、

ここで『方丈記』が記された。

 

小さくする、ということは

ただ縮小する、ということだけでは無いようだ。

そこから外部の広い世界へと通じる回路を同時につくること、

縮小することで拡大する、

という反転の構造があるように感じられる。

 

 

狭小住宅 に潜む大きな可能性

 

狭小住宅 にも発想の転換が必要だと思う。

そしてこの発想の転換にこそ、

狭小住宅 の大きな可能性が潜んでいると思う。

例えて言えば、

長編や短編の小説というよりは俳句のようなものだろうか。

日本庭園というよりは坪庭のようなものだろうか。

日本家屋というよりは茶室のようなものだろうか。

小さなものに大きな可能性を入れ込んでいく、

そんな逆転の発想が必要なのだと思う。

それがうまくいくと、

建物自体は小さくても、

豊かで、のびやかで、大きな可能性を持った住宅になるように思う。

 

 

狭小住宅 とは、ひとつのライフスタイル

土間のある狭小住宅、王子の家

(”王子の家|土間のある狭小住宅” この写真は新建築社によるものです。カメラマン:楠瀬 友将)

 

 

私は、

狭小住宅 とは、ひとつのとても魅力的なライフスタイルのこと、

だと思う。

それは、

”まち”に暮らす、

というライフスタイル。

 

ダイニングテーブルは近くのお気に入りのレストランにもある、

勉強部屋は近くの図書館の広いテーブルにもある、

映画を観たい時は近くの映画館に自転車で行けばいい、

ちょっと仕事をしたい時は、

ノートパソコンを持って行きつけの喫茶店に行けばいい・・・

 

閉じた家の中にだけ暮らすのではなく、

家の外壁を越えて、

敷地境界線も越えて、

”まち”に暮らす、

というライフスタイル。

 

生活の場は家の中だけではない。

”まち”の中に棲み、

”まち”の中で暮らしている。

こういったライフスタイルの人が増えれば、

その”まち”自体ももっともっと魅力的な”まち”になっていくだろう。

 

今後は例えばテレワークなども進み、

仕事の仕方も生活の仕方も変わっていくのだろう。

とすれば住宅のあり方も変わるはずだ。

 

仕事の場も生活の場も、

家の中だけで閉じてしまうのではなく、

家の外へ、

”まち”へと開いていける回路も必要になってくるのかもしれない。

”まち”に暮らす、

という狭小住宅 に、

今後の新しいライフスタイルの可能性が潜んでいるのかもしれない。

 

 

東京の”まち”に暮らす3階建て狭小住宅の設計実例(狭小・変形地)

 

これまでに書いたことを実際の設計でどう生かしたらよいのだろう?

東京の”まち”に暮らす狭小住宅の設計例として、

”空隙の家”の設計過程を振り返ってみる。

まずは土地探しの話しから・・・

 

土地探し

 

”空隙の家”のお施主さんご夫婦は、

長い時間をかけて土地を探していた。

最初に見せてもらった土地は東中山にある、

ちょっとした丘の上にある60坪ほどの土地で、

その3分の1ほどの斜面地は大きな樹がたくさんある林だった。

斜面地ゆえ建物を建てる際は、

深基礎にするか杭を打つ必要があるかもしれない。

けどその林はとても魅力的だった。

ただこの土地は事情があってやめた。

よくよく調べたら、

土砂災害警戒区域の基礎調査予定地エリアに引っかかっていることが分かった。

不動産屋さんの資料にもこのことは明記されていなかった。

 

 

「このまちが気に入ったから・・・」狭小・変形地の選択

”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” の変形・狭小敷地

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” の変形・狭小敷地)

 

 

次にお施主さんから送られてきた土地の資料は、

東中山の土地とはがらりと変わって、

東京都内の椎名町(東京都豊島区)の、

住宅密集地にある13坪程の狭小地かつ変形地だった。

理由を聞いたら、

「このまちが気に入ったから・・・」

ということだった。

都心に住まう、というスタイルを模索していたようだ。

 

このお施主さんご夫婦はふたりとも、

大学院に行って建築の勉強をして、

今も建築の仕事をしている。

狭小住宅のことを分かったうえでの判断だった。

このご夫婦はこの土地を選ぶと同時に、

”まち”に暮らす、

という今後のライフスタイルを選択した。

 

 

狭小・変形地に建つ狭小住宅の設計条件整理

まずは設計条件を整理をしておく。

 

1.小さい家に込める、大きな想い

お施主さん4人家族(ご夫婦+息子さん+娘さん)の主なご要望は以下の通り。

・家族の時間=絵を描き、ものを作る。→工房が中心の家
・ピアノを置きたい
・読書が好き
・緑と暮らす
・内か外か、曖昧な空間
・寝る場所は最小限(主寝室、子供部屋共)
・建物の構造はRC造(鉄筋コンクリート造)がいい
・駐車場(ガレージ)は要らない(カーシェアリングでいい)
・自転車置き場は必要
・ランドリースペースが欲しい

 

これらのご要望から導かれたテーマは、

家自体が工房であり、生活そのものが創造行為であるような家

 

 

2.狭小住宅 であるということ

設計時に考慮すべきことは他にもある。

都心近くの狭小住宅に住むということはどういうことか?

家だけで生活が完結するのではなく、

まちや敷地周辺も生活環境であるといった考え方で設計できないか?

 

 

3.敷地及びその周辺との関係性

私が設計する場合は、もう一つ考慮したい点がある。

それは敷地及びその周辺との関係性、だ。

2の狭小住宅であるということ、に関連するが、

敷地周辺環境を積極的に受け入れ、

狭小住宅であるということへの一般解であると同時に、

この土地ならでは、という特殊解でもあるような住宅にする、

ということ。

 


これら3つと、

建物の構成、

建物の構造形式、

が無理なく重なり合ったときに基本設計は完了する。

 

 

狭小・変形敷地の分析

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、敷地周辺図

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” の敷地周辺図)

 

 

私が設計をするときは、

まず敷地周辺をよく見て周って歩き、

敷地周辺図と1/100と1/50の敷地模型を作ることから始める。

上の画像がその敷地周辺図。

中央にあるのが今回の狭小・変形敷地で敷地面積は13.2坪。

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、敷地写真

(上:敷地写真①)

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、敷地写真

(上:敷地写真②)

 

私が敷地で最初に注目したのは北側隣家間にある隙間。

そして次に注目したのは南側道路の反対側にある大きな樹だった。

少しゆがんだ街区がどんどん細分化されて、

その結果できたような今回の変形地とこの隙間。

住宅密集地の中で視線が遠くに抜けるこの隙間は、

使えるかもしれない。

この隙間の先には道路がある。

そこから敷地を見返して撮った写真が下。

隙間の先にさっきの樹が見える。

この北側隣家間にある隙間を敷地内へと延長させて、

その隙間を中心にして暮らす家、

というのはどうだろう・・・?

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、敷地写真

(上:敷地写真③)

 

 

隙間を歩く・・・テーマおよび建物の構成の検討

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、コンセプト図

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” の敷地分析図(コンセプト図))

 

 

先ほどの隙間を敷地周辺図に重ねて出来たのが上のコンセプト図。

(上図の黄色い三角形の右側頂点が敷地写真③を撮った地点)

上図では西側隣家間の隙間もサブ要素として追加した。

北側隣家のパースの効いた隙間(メイン)、

西側隣家の間の隙間(サブ)、

を敷地内に延長したのが2本の黄色いゾーン。

 

建物の平面形は変形敷地の形状そのままに、

上記の黄色いゾーンを建物内に引き込むことで、

今回のお家を設計できないか?

このゾーンにある北側と南側の壁には大きな開口部を、

このゾーンにある屋根はすべてトップライトにする。

大きなトップライトになるが、

私が狭小住宅を設計するときは、

あえて大胆な設計をするようにしている。

小さな建物だからこそ大胆に、大らかに・・・

 

このお家ではこの黄色いゾーンを吹き抜け空間にして、

動線を集中させようか・・・?

1階から階から3階へ上がるときは、

北側のパースの効いた隙間に向って歩くことになり、

奥に行くほど幅も視界も狭まり、

2Fの寝室や3Fの洗面・浴室といったプライベート空間に辿り着く。

3階から1階へ降りる時は、

向かいの家の樹も見えつつ次第に空間の幅も視界も広がっていき、

この住宅で最も広い空間である1階のLDKに辿り着く。

さらに加えて、

2階の寝室や3階の洗面から出る時は、

西側燐家の隙間に向って歩く動線にする。

つまり”工房のある家”では、

2本の隣家間の隙間によって動線の位置や向きが規定されて、

その結果としてのプラン(間取り)となる・・・

つまり動線の位置を先に決める。

(※私の”間取り”についての考え方は「建築家思考の 間取り」をご参照ください)

 

 

キャンチスラブ・・・建物の構造形式の検討

(※キャンチスラブとは片持ち床のこと。片持ち梁のようにスラブが片持ちに出ているもの。)

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、ボリューム模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” ボリューム模型)

 

 

ここで問題になったのは建物の構造形式。

鉄筋コンクリート造で建てることはお施主さんのご希望だった。

ただし高度斜線、道路斜線が厳しい変形地ゆえ、

普通に3階建てにすると屋根がとても複雑な形状になってしまうし、

3階の床面積も余り確保できない。(上のボリューム模型の画像を参照)

 

トップライトを設けるならフラットルーフにして、

足場を掛けなくても、

屋上からトップライトのメンテナンスが出来るようにしたい。

上の画像のボリューム模型にある上の赤い部分をなくせれば、

工事費においてもローコスト化できるだろう。

けどそれだと建物の高さは5.7m程になってしまい、

3階建てにするには高さが足りない。

足りない分は地下に埋めてしまおうか・・・

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、ボリューム模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” ボリューム模型)

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、ボリューム模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” ボリューム模型)

 

 

近隣のボーリングデータで表層から1mちょっとの深さまでが盛土で、

その下に関東ローム層のしっかりした地盤がありそうだと分かったこと、

そして道路の排水桝の深さから逆算して、

キッチンの排水をちょっと特殊な横引トラップを使えば、

1F床は地盤から900mmほど下げても自然排水できそうだと分かったこと、

これらのことから1Fを半地下にした。

このくらいの深さなら簡易山留でいけるし、

結果的には半地下にすることで支持地盤に直接建物を載せれるので、

地盤改良も深基礎にする必要もなくなった。

 

そうすることで埋めた分は建物の高さが稼げる。

それでも3F建てにするには高さがギリギリなので、

床の厚さを薄くする必要がある。

そこで思いついたのがキャンチスラブという構造形式。

キャンチスラブにすれば梁が要らないので階高は最小限に抑えられる。

そのアイデアスケッチと模型が下の画像。

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、キャンチスラブ

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” スケッチ)

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 構造コンセプト模型)

 

 

天井高さは居室で2.1mほど、

浴室や洗面は1.9m、

ワークスペースは1.4mと低い。(ロフト、小屋裏収納)

けど中央に3層吹き抜けの6m程の天井高さの空間があるので、

窮屈な印象はないはず。

 

そしてこのキャンチスラブ案が決め手となって現在に至り、

実施図面が下の画像。

 

屋上点検口から屋上に出られるようにして、

トップライトのメンテナンスが足場なしで出来るようにしている。

屋上は後々には手すりをつけて、

ルーフバルコニーとしても使えるようになっている。

 

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、断面図

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 断面詳細図)

 

 

最下層の1Fの床以外は全てキャンチスラブ。

7枚のキャンチスラブで出来るお家。

スキップフロア状に一部床のレベルを変えることで、

色々な高さから、

色々な方向から、

樹を見ることができる。

キャンチスラブの厚みは基本200mmに統一することで、

壁の型枠を再利用しやすいようにしている。

これはCASA ESPIRALの時にも採用したローコスト化につながるアイデア。

 

 

 

路上で・・・というアナロジー

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 模型)

 

 

”まち”にいる時の主な体験として、

私が真っ先に思い浮かべるものに、

建物と建物の隙間にある道や路地を歩く、

というものがある。

そういった体験を家の中にも持ち込めないか、

そう考えて設計したのが”空隙の家”。

 

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” コンセプト図面)

 

 

上図の2本の黄色いゾーンに配された動線は、

”まち”なかの隙間を歩く体験のアナロジーとしてある。

 

玄関を入って、

吹き抜け空間の手前にシマトネリコの樹、

その奥にパースの効いた(先細の)大きなテーブル、

そしてその一番奥に電子ピアノ、

そのように手前から大きいものを並べて、

それらの重ね合わせで、

小さい住宅だけど奥行の距離感を作り出そうとしている。

この吹き抜け空間自体も、

パースの効いた(先細の)空間なのでより効果的だと思う。

そして片側の壁面は3層分の本棚・・・

 

”まち”なかの路上で、

本を読んだり、食事をしたり、絵を描いたり、ピアノを弾いたりしているかのような、

そんな生活ができるお家・・・

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 模型)

 


 

設計の過程を大雑把に振り返るとこうなるが、

実際はこんなにすんなり進んだわけではもちろんない。

基本設計では何十という駄目になった案があった。

下の画像はその一部の模型たち。

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、スタディ模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” スタディ模型)

 

 

その中で可能性のある考え方を少しずつ、

紆余曲折がありながらも積み重ねていき、

最後まで辿り着けたのが今の案である。

 

 

”まち”に暮らす、都心のRC造狭小住宅の平面図(間取り)とデータ

 

下は各階平面図(間取り)。

(法規上、玄関がある階が2Fになっています)

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅|1F平面図
空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅|2F平面図
空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅|2.5F平面図
空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅|3F平面図

 

データ

所在地 :東京都豊島区
敷地面積:43.66㎡(13.23坪)
述床面積:70.75㎡(21.44坪)
構造  :RC造
規模  :地上3階+小屋裏収納
建築施工:本間建設
竣工年 :2023年予定

 

 

”まち”に暮らす 狭小住宅 ならではの価値観

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 模型)

 

 

"工房のある家"の設計過程を振り返ってみた。

”まち”なかの路上のアナロジー、

そう言ったところで、

実際はとても小さな家、ではある。

 

もちろん狭小住宅では特に、

出来るだけ広く感じられるように工夫するとか、

合理的な収納を工夫するとか、

そういうことも大事だと思う。

ただそれだけでは、

本当はもっと広い家の方がいい、

その前提から逃れられていない気がする。

”まち”に暮らす、

そんな狭小住宅ならではの価値観、が欲しいと思う。

 

狭小住宅を”ただ小さな家”と考えるのではなく、

”まち”に暮らす、

というライフスタイルとして考えなおすこと。

ただ小さくする、

のではなくて、

俳句のような、

坪庭のような、

茶室のような、

小さくすることで拡大する、

そこから外部の広い世界へと通じる回路を同時につくること。

小さなものに大きな可能性を入れ込んでいく、

そんな逆転の発想を大事にしながら、

狭小住宅ならではの可能性を今後も考えてみたい。

それが出来たら、

狭小住宅はもっと面白く、

もっと楽しいものになると思う。

 

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造3階建て狭小住宅、模型

(”空隙の家|都心のRC造狭小住宅” 模型)

 

 

追記:狭小住宅の価格について(メリット、デメリット)

 

広い土地にお家を建てるのと比べて,

狭小住宅の建設(工事)費用は割高になりがちです。

理由はいくつかあります。

 

1.

土地が狭いゆえに、

延べ床面積を確保するために地下室をつくったり、

3階建てになったりします。

ガレージは必要だけど建物の間口が狭い場合は、

鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)にすることもあり、

これらは木造(W造)よりも建設コストや構造計算料が高くなります。

 

2.

土地が狭く前面道路が狭かったりすると、

近くに職人さん用の駐車場を借りる必要があったり、

資材搬入に手間と時間がかかったりなどで、

工事費が高くなりがちです。

 

3.

工事費が高くなる浴室やキッチン等の必要な設備関係は、

床面積に余裕があるお家でも狭小住宅でも基本的に変わりません。

つまり狭小住宅では”ただ床しかない部分の床面積”の割合が小さくなるため、

坪単価で比べると高くなります。

 

4.

床面積に余裕があるお家でも狭小住宅でも、

必要となる工事期間は基本的に変わりません。

つまり計算上、

狭小住宅では単位床面積当たりの工事日数が多くなるので、

坪単価は高くなりがちです。

(駐車場代など工事期間に左右される経費があるので)

 

狭小住宅ならではのメリットもあるはずです。

土地が狭い分、土地代が安くなったり、

通勤時間が短くなったりなど。

”まち”に暮らす狭小住宅なら、

徒歩や自転車ですぐに行ける範囲に、

スーパーやコンビニ、レストラン、図書館があるなど、

都心や街中ならではの利便性も享受できることと思います。

当たり前のことですが、

坪単価などの工事費だけでなく、

お家を建てた後の生活・ライフスタイルも含めて、

後悔のない選択をしてもらえたらと思います。

 

 

狭小住宅 こそ建築家との家づくりを!

王子の家、土間のある狭小住宅

(”王子の家|土間のある狭小住宅” この写真は新建築社によるものです。カメラマン:楠瀬 友将)

 

 

狭小住宅は狭小住宅ならではの難しさがあります。

普通の住宅と同じように設計しても上手くいきません。

建物が小さい分、

ちょっとしたデザインや工夫の積み重ねで、

結果に大きな差が出て来ます。

そして住宅内部だけを考えるのではなく、

敷地周囲をうまく味方につけることもとても大事です。

開口部の設け方の工夫ひとつで建物がガラっと変わったりもします。

これらは、

ある程度標準仕様が決まってしまっているハウスメーカーさんの住宅では、

うまく対応しきれないはずと思います。

 

建築家に依頼する場合、

設計・工事監理料がその分高くなるのでは、

そう思われるかもしれません。

けど私はそう思っていません。

これは狭小住宅に限らないのですが、

その住まい手・その土地ならではの家を考え、

1~200枚ほどの図面を描いて設計の工夫をこらし、

工務店さんとの見積内容のチェックや金額調整の交渉もして、

第三者として工事内容のチェックもしますので、

設計・工事監理料分は、

必ず建物の価値として戻ってくるはずと思います。

狭小住宅だからこそ建築家との家づくり、を、

お考えになった方が良いと思います。

 

 

2024/4/12 更新

”家づくり”シリーズのページは、お問い合わせ等を反映させて頂き、随時更新しています。


も併せてご覧いただけたらと思います。
随時、
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PLUSZERO  ARCHITECT

佐藤森|プラスゼロ一級建築士事務所

〒151-0071
東京都渋谷区本町6-21-1チャイルドビルB1F

T 03-5309-2982
F 03-5309-2983
architect@pluszero.info


佐藤森

1973   神奈川県生まれ
1996   早稲田大学理工学部建築学科卒業
1998   同大学大学院修士課程修了
1998-  14ヶ国を経てユーラシア大陸を陸路で横断
2000   アーツ&クラフツ建築研究所
2005-  ミャンマー、インド
2006-  アーツ&クラフツ建築研究所
2008-  プラスゼロ一級建築士事務所

 

 

 

狭小住宅の実例作品


空隙の家
(都心のRC造狭小住宅)

空隙の家|Crevice House| 都心のRC造狭小住宅


王子の家
(土間のある狭小住宅)

王子の家、土間のある狭小住宅


鶴ヶ峰の家
(高低差のある変形地に建つ狭小住宅)

鶴ヶ峰の家、高低差のある変形地に建つ狭小住宅


上丸子の家
(間口4m細長い狭小住宅(木造ラーメン))

上丸子の家、間口4mの細長い狭小住宅(木造ラーメン)


保土ヶ谷の家
(ローコストの狭小住宅)

保土ヶ谷の家、ローコストの狭小住宅


ちっちゃなハナレ
(狭小住宅のリノベーション)

ちっちゃなハナレ、狭小住宅のリノベーション


 

狭小住宅 以外の 実例作品


クラスター・ハウス

クラスター・ハウス、Cluster House


中目黒の家
(トップライトがあるスキップフロアの住宅)

中目黒の家、トップライトのあるスキップフロアの住宅


つくばみらいの家
(旗竿敷地のローコスト平屋注文住宅)

つくばみらいの家、,ローコスト平屋注文住宅


百合ヶ丘の家
(スキップフロアの木造住宅)

百合ヶ丘の家、スキップフロアの木造住宅


CASA ESPIRAL

(ローコスト集合住宅)

CASA ESPIRAL、ローコスト集合住宅


Bob's Fit Market 神楽坂店
(リフォームの狭小店舗)

Bob's Fit Market 神楽坂店、リフォームの狭小店舗

手作りの婦人靴店

Bob's Fit Market のHPはこちら

 

 

紹介されたMedia


日経アーキテクチュア

日経アーキテクチュア2024年2月8日号
(日経BP)

空隙の家


空隙の家,住宅特集

新建築 住宅特集11月号
(新建築社)

空隙の家


最もくわしい屋根・小屋組の図鑑 改訂版

最もくわしい屋根・小屋組の図鑑 改訂版
(エクスナレッジ)

つくばみらいの家


居心地のいい家をつくる注目の設計士&建築家100人の仕事

居心地のいい家をつくる注目の設計士&建築家100人の仕事
(パイインターナショナル)

クラスター・ハウス

王子の家

CASA ESPIRAL

鶴ヶ峰の家


現代住宅の納まり手帖

現代住宅の納まり手帖
(彰国社)

つくばみらいの家


ELLE DECOR 10月号

ELLE DECOR 10月号
(ハースト婦人画報社)

王子の家


Architecture and Culture 445

Architecture and Culture 445
(ARCHI-LAB CO.)

王子の家
CASA ESPIRAL


新建築 住宅特集5月号

新建築 住宅特集5月号
(新建築社)

王子の家


最もくわしい屋根・小屋組の図鑑

最もくわしい屋根・小屋組の図鑑
(建築知識)

つくばみらいの家


新建築8月号 集合住宅特集

新建築8月号 集合住宅特集
(新建築社)

CASA ESPIRAL


住まいの設計 9・10月号

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(扶桑社)

クラスター・ハウス


渡辺篤史の建もの探訪

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クラスター・ハウス


建築知識 11月号

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(エクスナレッジ)

つくばみらいの家


住まいの設計 9・10月号

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(扶桑社)

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新建築 住宅特集4月号

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(新建築社)

クラスター・ハウス


住まいの設計 11・12月号

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(扶桑社)

中目黒の家


MY HOME 100選 VOL.15

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住まいの設計 11・12月号

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住まいの設計 7・8月号

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渡辺篤史の建もの探訪BOOK

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お役立ち情報


国土交通省が運営する
ハザードマップポータルサイト

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

 


国土交通省が運営する
浸水ナビ

国土交通省が運営する「浸水ナビ」


インターネットで住宅地盤情報
ジオダス

インターネットで住宅地盤情報ジオダス

 


 


建築家・佐藤森/PLUSZERO ARCHITECTは狭小住宅・注文住宅・デザイン住宅の設計を得意とする東京・渋谷の設計事務所。東京・神奈川・埼玉・千葉などでこだわりの家を建てるなら是非!

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